【北京＝阿部哲也】中国・天津市の港湾部で12日に起きた爆発事故が、物流や生産など企業活動に深刻な悪影響を及ぼし始めた。港湾施設は機能がほぼ止まり、進出各社の事業所や倉庫施設も復旧がままならない状況だ。天津港のマヒ状態が長引けば、生産の停滞や輸出の減少という形で中国経済の足を引っ張りかねない。

　12日夜の事故発生から２日たったが、付近一帯は現在も警察や消防車両が陣取り、完全閉鎖が続く。「有毒物質が流れ出ている」。中国メディアなどによると、爆発の原因となった化学物質が大気や地下水を通じて周囲に漏れ出しており、軍の専門部隊が調査に乗り出したという。

　天津港は北京を中心とする華北地方の玄関口だ。特別市である北京、天津と河北省を合わせた総人口１億人超の「大首都構想」の中核拠点で、中国当局によると2014年の貨物取扱量は浙江省寧波、上海、シンガポールに次ぐ世界４位だった。爆発のあった浜海新区では４月に「自由貿易試験区」が発足し、港湾施設や工業団地の整備が進んでいただけに打撃は大きい。

　日系企業への影響も広がる。天津港のターミナル施設は停止し、貨物も搬入できない状況が続く。最も打撃を受けそうなのが、天津に工場や物流施設が集まっている自動車産業だ。

　新車百数十台が爆発の被害を受けた富士重工業は天津港の機能停止を受け、物流経路の振り替えを検討する。同社は中国に工場がなく、日本から全量を輸出しているため、北部への供給を担う天津港が使えなくなる影響は大きい。

　トヨタ自動車は14日、爆発事故が起きた倉庫の周辺で現地合弁会社の社員50人以上が負傷したことを明らかにした。同社は倉庫近くに乗用車の組み立て工場、開発拠点、物流施設を構えている。工場は９日から16日まで長期休暇だったが、「入寮者を含む付近居住者が負傷した」（広報部）という。

　現場から約４キロの地点に飲料生産工場を持つ大塚製薬は、14日と15日の操業停止を決めた。従業員の安全や物流への影響を調査するという。イオンは爆発地点から２キロの距離にある店舗が爆風で被害を受け、営業再開のメドが立っていない。

　中国企業の輸出にも影を落とす。天津港は河北省に集積する鉄鋼産業の輸出拠点になっており、中国の鋼材輸出の３割を取り扱う。「このまま天津港が使えなければ、東南アジアや欧州向け輸出が完全に止まる」（鉄鋼大手）。人民元切り下げで輸出を増やし、景気下支えを狙う中国政府のシナリオに水を差しかねない状況だ。